紫龍の師匠、老師。画像はBANDAI SPIRITS「聖闘士聖衣神話EX ライブラ童虎&老師 ~ORIGINAL COLOR EDITION~」(C)車田正美/集英社・東映アニメーション

【画像】若返った童虎は…「黄金聖闘士」強さランキングをカウントダウン!(16枚)

動かないどころか、聖闘士たちを止めてもいるのは…?

 マンガ『聖闘士星矢』に登場する「天秤座(ライブラ)の童虎(老師)」といえば、レギュラーメンバーである「龍星座(ドラゴン)の紫龍」の師匠であり、物語本編でも最強を誇る黄金聖闘士のひとりです。普段は老人の姿で五老峰の大滝の前に座したまま、ハーデス軍の「魔星」が封じられた塔を監視しています。

 その実力たるや、「聖域十二宮編」のラスボスで偽教皇だった、黄金聖闘士のなかでも最強ともいわれるサガが「聖闘士の中では最強の実力を誇る、最も恐るべき男」と評するほどです。

 童虎は、前大戦の生き残りであり教皇でもあった黄金聖闘士「シオン」(童虎にとっては前大戦を生き残った盟友)をサガが殺害し、教皇に成り代わった事情も、サガが「女神アテナ」の生まれ変わりである「城戸沙織」を殺害しようとし、その罪を黄金聖闘士「アイオロス」に着せようとしたことも、知っていた人物です。

 実際、サガが正体を明らかにした時に、シオンの弟子である黄金聖闘士「ムウ」は「やはり老師や私の予感は正しかったのだ」と、事情を知っていることを明らかにしています。

 ムウは、全員でサガを倒しアテナを救おうという「アイオリア」の申し出に、「動けるものなら老師も私も初めからそうしている」「これは天がアテナに与えた試練なのだ」「サガごとき一人の邪悪に倒されるようなアテナなら、それはどうあってもニセ者。これから始まる大いなる聖戦を戦うことはできないと、老師は仰られていたのだ」と制止します。なお、聖闘士は女神アテナを守り、地上の平和を守る戦士ですから、これは完全なる職務放棄発言なのですが、アイオリアたちは納得してサガ討伐を断念するのです。

 ちなみに童虎とムウは、直前までサガに「13年前、逆賊アイオロスに加担し、聖域を裏切ったまま野放しになっている」と名指しされている「反逆者扱い」なのですが、「老師はこう言った」は、水戸黄門の印籠のように絶大な効果があるようです。

 また「ポセイドン編」でも童虎に指示されたムウは、アテナが「ポセイドン」に囚われ、世界中の水害を引き受けるという危機になっても、ポセイドン神殿に向かおうとするアイオリアたちを止めています。

 アイオリアは納得できず「このアイオリアとミロの2人だけでも、ポセイドン軍など物の数ではない」と言い、ムウは直接答えずに「まさか老師は……」と流しています(この「まさか」が何なのかは、以下で考えていきましょう)。

 こうした具合で、本人が戦わないだけでなく、他人も戦わせないキャラクターになっています(蘇ったシオンと小競り合いしただけで、ハーデス編でもほぼ戦っていませんね)。

 なぜ童虎は、黄金聖闘士たちを止めていたのでしょうか。そもそもなぜ、聖闘士たちは彼の言う事を聞くのでしょうか(「十二宮編」後は、聖闘士の最古参ながら、教皇に就任もしない人なのですが)。

 童虎は「五老峰の大滝の前に座したまま、ハーデス軍の魔星が封じられた塔を監視」しているので、本人は動けないということになっていますが、これも不思議な話です。

 前聖戦を体験しているなら「アテナや黄金聖闘士が揃わなければハーデス軍とは戦えない」ことを知っていたはずなのですが、「アテナは助けない」「星矢たちが黄金聖闘士を討ち取るのを邪魔しない」と、むしろアテナ側の戦力を減らすような行動しかしません。

 順に考えてみましょう。

 まず「聖闘士が童虎の言う事を聞く理由」です。黄金聖闘士「デスマスク」が五老峰の大滝に現れた時でも、彼は童虎には攻撃を仕掛けていません。また養女の「春麗(しゅんれい)」がデスマスクの技により滝壺に落とされたときも、童虎は「攻撃的テレポーテーションなど、わしの前でやりとげられるものか」と、彼の技を熟知している様子を見せつつ、彼女を救っています。

 もしかしたら「ほぼ全ての聖闘士の師匠が童虎」なのではないでしょうか。



天秤座の黄金聖衣。画像はBANDAI SPIRITS「聖闘士聖衣神話EX ライブラ童虎&老師 ~ORIGINAL COLOR EDITION~」(C)車田正美/集英社・東映アニメーション

(広告の後にも続きます)

童虎が「(ほぼ)全聖闘士の師」と考えられるワケ

 前大戦で聖闘士が童虎とシオンだけになり、シオンは教皇になりました。聖闘士がほぼ全滅したものの、シオンは教皇なのでたくさんの弟子は持てず(ムウのように直弟子がいないわけではありませんが)、戦闘技術を伝えられるのは童虎だけということになります。

 聖闘士は他の聖闘士がどんな守護星座なのか、瞬時に判別するなど、他の星座もよく知っています。「白鳥星座の氷河」が「水瓶座のカミュ」の技である「ダイヤモンドダスト」を使うように、技も、守護星座でなくとも使えるようです。

 つまり「各聖闘士の使うべき技を全て把握・継承し、それぞれの守護星座の弟子に伝えた」のが童虎で、今いる聖闘士はほぼ全て童虎の弟子か、孫弟子なのではないでしょうか。

 白銀聖闘士の「アルゴル」が、格下である青銅聖闘士の紫龍に「貴様があの高名な五老峰の老師の弟子か。相手にとって不足はない」と言っているくらいで、誰もが「とてつもない功労者で実力者」だと認めているから、前述のように「反逆者」扱いされていても発言力があるのでしょう。

 さて、童虎は先代アテナによる仮死の法「MISOPETHA-MENOS(ミソペサメノス)」を解けば、若者に戻って戦えます。サガが聖域を乗っ取った時に、真実を明らかにして、サガ討伐を宣言すれば、その人望で黄金聖闘士の大半は味方になり、聖域を奪還できたはずです。ポセイドンの時も、黄金聖闘士を派遣すれば、恐らく「シャカ」ひとりでも七将軍は壊滅していたでしょう。

 これをしない理由は、筆者にはひとつしか考えられません。前大戦の「経験」です。

 前大戦は、聖闘士が88人揃っていても、ふたりしか生存しない激戦でした。ハーデス軍には「終わった大戦の記憶を持ったまま」の「タナトス」などもいますから、かつてアテナ軍が取った戦術への対策も可能です。

 前大戦を知る童虎は「今の聖闘士たちでは、今大戦は確実に負ける」と考えていたのではないでしょうか(実際、ポセイドン編を経た星矢たち4人でも、蘇ったシオンがひとりで蹴散らしています)。

 上記の考察が正しいなら、今の聖闘士たちは「天秤座の童虎自身がほぼ全てを復活させた流派」ですから、前大戦の聖闘士の技を完全に復活させている自信を持てない、というのも考えられます。

 そして『聖闘士星矢』では「弱いキャラクターが多人数で強いキャラクターと戦えば、有利になる」ことはありません。頭数がいても、弱ければ無意味なのです。

 さらに、童虎は「アテナの封印」を受けた体です。沙織が気絶していても、アテナ像が星矢にアテナの盾を授けるように、先代アテナの意志は沙織とは別にあります。童虎のいう「天の意志」とは、自身の施された封印に宿る先代アテナの意志で、彼はその声が聞こえるのでしょう。

 先代アテナは「今のままでは聖戦に勝てない」「一番伸びしろが大きいのが、星矢たち5人」と見極めた上で、「全ての戦いを星矢たちの(成長の)ためにせよ」と、童虎に命じていたのではないでしょうか。もしそうなら、聖闘士たちですら、世界を救う糧とするのですから、さすが戦いの女神、恐るべき軍才と言わざるを得ません。