『薬屋のひとりごと』キービジュアル (C) 日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会
【画像】ネコのようにくるくる変わる表情が魅力!いろんな猫猫を見る(6枚)
華やかな後宮を支える男でなくなった男たち
『薬屋のひとりごと』は架空の中華風王朝を舞台に、薬屋の少女である猫猫(マオマオ)が活躍する後宮ミステリーです。作中に後宮を管理する美形宦官(かんがん)の壬氏(ジンシ)や高順(ガオシュン)が登場しますが、実際のところはどうだったのでしょうか。リアルな宦官(かんがん)についてみてみましょう。
はじまりは奴隷から
宦官といえば中国が有名ですが、実は古代ギリシャや東ローマ帝国、イスラム世界、ベトナムなどにも生殖能力を失った官吏は多く存在しました。その始まりは戦争などによって手に入れた奴隷だったと言われています。敵の生殖能力を奪ってしまえば子供を作れないので、完全に支配できるということでしょう。『薬屋のひとりごと』のように後宮の妃たちを管理するうえで安心できるというだけでなく、官僚として使役する際に権力を子供に継承させないよう、あらかじめ生殖能力を奪っておく、という目的もありました。
子孫を残せない人間を作るというのは、権力者にとって都合の良いことだったといえるでしょう。
宦官になるのは出世の道
時代が進むにつれて奴隷や刑罰で宦官にさせられたものだけでなく、自宮(じきゅう:自ら局部を切除する)して宦官になるものが登場します。中国では立身出世の王道は科挙(かきょ:官吏になるための試験)でしたが、多くの一般人は科挙に合格できるほどの勉強など出来ません。勉強できる環境を用意できる点で試験前に振り分けられているといえます。
そこで自宮すれば誰でもなれる宦官になって宮廷に仕え、一発逆転を目指すものが現れました。これは中国だけの事例ではありません。イスラムなどでも出世目的で宦官を目指すものが現れました。局部を切ってまで出世したいというのは現代人からすると想像を超えていることでしょう。
しかし自宮して宦官になったとしても、能力的には読み書きすらできないものが大半で、ほとんどの宦官は出世などできず奴隷同然の扱いを受けました。科挙に合格した官僚とは比べ物にならない地位の低さです。高位の宦官や王朝を揺るがすような悪徳宦官になれたのはきわめて少数だといえます。
おやじに頭を撫でられる猫猫 画像は『薬屋のひとりごと』の場面カット (C)日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会
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去勢していたのに結婚できた!
生殖能力がない宦官ですが、実は性欲は残っています。そのため後宮女官と結婚して夫婦同然の暮らしをするものが多くいました。中国ではこの関係を対食(たいしょく)といいます。
「陰茎も陰嚢もない」のにどうするかというと、抱き合うなどして性的興奮に達すると大量の汗をかいたそうです。また女官を満足させるために陰茎を模した「張り型」をつかったという話も聞かれます。性器がないのに性欲だけがあるというのは相当に大変な状態ではないでしょうか。後宮は妃同士の寵愛争いだけでなく、下々の者たちの恋愛問題でドロドロしていたようです。
※以下、アニメ未収録の内容を含みます。
『薬屋のひとりごと』の改変点
局部をとってしまうと、男性ホルモンが生成されないため声が高くなったり、女性のような体つきになったりしてきます。猫猫のおやじである羅門(ルォメン)は陰茎も陰嚢もとっているため、原作小説ではたびたび「老婆のような」老人と描写されており、アニメでも中性的な老人として描かれています。
しかし壬氏(ジンシ)や高順(ガオシュン)は男性的に描かれています。メインキャラクターだからでしょうか。
実は2023年12月時点のアニメで明らかになっていない設定ですが、『薬屋のひとりごと』において王朝は局部を切除して宦官をつくる制度をやめています。生殖能力を一時的に失わせる薬で去勢して宦官になるというオリジナル設定が採用されているのです。後宮に仕える時だけ間違いがないよう、生殖能力がなければいい、ということでしょう。
以前、手に垂らしたはちみつを舐るよう迫られた猫猫は壬氏の股間を蹴って窮地を逃れようとしましたが、蹴っても「アレが無い」ので意味がないと判断して思いとどまりました。しかし薬を服用している間だけ去勢している壬氏や高順には「ついている」のです。
もしも猫猫が壬氏(ジンシ)の股間にキックをお見舞いしていたら、微妙な感触と共に大きな効果が発揮できたに違いありません。
そのあとはもっと大変なことになったでしょうけど……。